言葉の力歳月記

話題の言葉、心に残る言葉・名言・名句・名台詞・俳句・短歌・詩、新語などを季節とともに学びながらお知らせしています。

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「春はなぜ曙なのか」 「春は桜」でしょ

「春はなぜ曙なのか」

■2015年の桜開花宣言
●3月21日
鹿児島、熊本、名古屋で開花宣言が行われました。

●3月22日
午後6時までに6県で桜が開花しました。
静岡、高知、福岡、佐賀、長崎、宮崎の6県です。
●3月23日
東京、岐阜で開花宣言
●3月24日
高松市で24日、桜(ソメイヨシノ)が開花した。平年より4日、昨年より2日早い。
以上のようにあちこちで桜の開花が聞かれる今日この頃です。


春は桜。 夏は海。 秋は紅葉。 冬は雪。

と私的には「枕草子」を書きたいところであるし、大多数の日本人が納得するところではないでしょうか。

しかし清少納言はあえて枕草子の中では

春はあけぼの。
夏は夜。
秋は夕暮れ。
冬はつとめて(早朝)。

とつづっています。

 

「春はなぜ曙」なのでしょうか。「春は桜」でしょ。

春は桜のほうがぴったりきます。

現代人が誰も見てないような曙をあげたのでしょうか。

単なるへそ曲がりなのでしょうか。

 

清少納言枕草子という随筆の文頭を飾るのに「桜」では花としては梅に先を越されているし、又「言い古された言葉で平凡すぎる」と思って避けたのでしょう。
また「桜は1週間しか持たず、逢えるのに1年かかるので日常的ではない。

世間人と同じことを書いても面白くなく、個性ある自己表現をする」ために春はあけぼのとしたのでしょう。

同じように早朝を表現することばとしてもう少し早い朝を表す「東雲」があります。

しかし「しののめ」という言葉が男女の別れを暗示しつつ早朝の情景を表現するのに対して「曙」は再会、めぐり合い、夢や希望を暗示し、ひいては始まりの意味を込めて「春は曙」と表現したのだと思います。


「桜は春の象徴であるが始まりではない。

曙は一日の始まり、季節の始まり、ひいては枕草子という随筆の始まり」としてふさわしく感じたのでしょう。始まりという点に重点がおかれています。

やはり「春は曙」で始まる必然性があったのですね。

 

曙は毎日繰り返されるが同じではない。清少納言は人生を螺旋階段を行き来しているようなものとして捉えていたのではないでしょうか。

曙は壮大な宇宙のドラマであり、人生そのものと考えていたのです。

 

ひとつ残念に思うのは清少納言枕草子第一段では「朝と夜」しか記述がありません。
昼間は寝ていたのでしょうか。
それとも忙しくてかまってられなかったのか気になるところです。

 

※「しののめ」とは美しい言葉ですが「しののめ」を「東雲」と漢字で書くのは、「東の空」の意味からの当て字です。しののめの語源は、「篠の目(しののめ)」であろう。といわれています。

 古代の住居では、明かり取りの役目をしていた粗い網目の部分を「め(目)」といい、篠竹が材料として使われていたため「篠の目」と呼ばれたようです。

この「篠の目」が「明かり取り」そのものを意味するようになり、転じて「夜明けの薄明かり」や「夜明け」も「しののめ」と言うようになったとされています。


■参考
『春はあけぼの』


原文

春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山際、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。

夏は夜。月のころはさらなり、闇もなほ、蛍の多く飛びちがひたる。また、ただ一つ二つなど、ほかにうち光て行くもをかし。雨など降るもをかし。

秋は夕暮れ。夕日の差して山の端いと近うなりたるに、烏の寝所へ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど飛び急ぐさへあはれなり。まいて雁などの連ねたるが、いと小さく見ゆるは、いとをかし。日入り果てて、風の音、虫の音など、はた言ふべきにあらず。

冬はつとめて。雪の降りたるは言ふべきにもあらず、霜のいと白きも、またさらでもいと寒きに、火など急ぎおこして、炭持て渡るも、いとつきづきし。昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、火桶の火も、白き灰がちになりてわろし。


現代語訳(口語訳)

春は明け方が良い。日が昇るにつれてだんだんと白くなる、その山の辺りの空が少し明るくなって、紫がかっている雲が長くたなびいている様子が良い。

夏は夜が良い。月が出ている夜はもちろんのこと、(月が出ていない)闇夜もまた、蛍が多く飛び交っている様子も良い。また(たくさんではなくて)、蛍の一匹や二匹が、かすかに光って飛んでいるのも良い。雨が降るのもおもむきがあって良い。

秋は夕暮れが良い。夕日が差し込んで、山の端がとても近くなっているときに、烏が寝床へ帰ろうとして、三羽四羽、二羽三羽と飛び急いでいる様子さえしみじみと感じる。ましてや雁などが隊列を組んで飛んでいるのが、(遠くに)大変小さく見えるのは、とてもおもむきがあって良い。日が落ちてから聞こえてくる、風の音や虫の鳴く音などは、言うまでもなくすばらしい。

冬は早朝が良い。雪が降っている朝は言うまでもなく、霜が降りて辺り一面が白くなっているときも、またそうでなくてもとても寒いときに、火などを(台所で)急いでおこして、(部屋の)炭びつまで持っていく様子も、たいそう冬にふさわしい。昼になって暖かくなると、火桶に入った炭火が白く灰っぽくなっているのはよくない。