「年金目減り時代」、見た目はプラス、実感はマイナス 「マクロ経済スライド」とは
■年金水準の実質引き下げ、4月分から実施…「長寿化」「仕送り負担」反映
年金額が今年4月分から原則0・9%引き上げられる。増額は16年ぶりだが、物価や賃金ほどは上がらず、実質的には引き下げ。少子化と平均余命の伸びを年金額に反映する「マクロ経済スライド」が初めて実施されるためだ。一定の経済成長が続けば、約30年行われ、年金水準は引き下げられる。受給世代にも将来世代にも厳しい施策だが、年金制度をどう持続させるかが問われている。
引き上げは、今年6月に振り込まれる4、5月分の年金額から実施される。国民年金が満額の人で月に608円、厚生年金のモデル世帯で同2441円の増加になる。
年金は原則、物価や賃金が上がれば増え、下がれば減る。平成27年度は、物価や賃金の動向だけ見れば2・3%の引き上げ。国民年金が満額の人なら、おおむね1500円分だ。だが、2つの要因で圧縮される。これが目減りの理由だ。
要因の1つは「特例水準の解消」。現在の年金は、過去に物価が下がったときに行われるべき減額が不十分で、本来の水準よりも高い年金(特例水準)が支給されている。今回は、その是正で0・5%が引き下げられる。これで、過去約15年にわたり、本来よりも高い水準だった状態が解消される。
もう1つは「マクロ経済スライド」の実施。少子化と長寿化に伴う水準抑制だ。
保険料を納める現役世代の減少と、年金を受け取る高齢者の平均余命の伸びを年金額に反映する仕組みで、平成16年の年金改正で導入された。現役世代の「仕送り」負担を軽くし、次世代に年金制度を引き継ぐ「切り札」とされた。だが、デフレが長く続き、実施されなかった。物価や賃金が下がったときは実施しないルールがあるからだ。
昨年の物価上昇を受け、来年度に初めて実施され、0・9%が引き下げられる。うち0・6%が少子化要因、0・3%が長寿化要因だ。
これら2つのマイナスを差し引き、年金は原則0・9%引き上げられる。国民年金や厚生年金など、すべての公的年金が対象になる。
【平成27年度の年金月額】
平成26年度 平成27年度
国民年金 6万4400円 6万5008円
(新規裁定の満額) (+608円)
厚生年金 21万9066円 22万1507円
(モデル世帯) (+2441円)
※26年度額に0.9%分を上乗せしても27年度額にはならない
■「年金目減り時代」
老後の暮らしを支える年金制度が、1日から新たな時代に入ります。
「年金目減り時代」、見た目はプラス、実感はマイナスどうして
■Q&A
(Q: 年金は毎年4月に、物価や賃金の動きにあわせて見直される。今回は2.3%上昇するはずだった?)
A: そうですね、今まで通りでしたら、このぐらいの上昇だったわけなんですけれども。
(Q: 今回は0.9%の上昇となった。これはなぜ?)
A:このような状態、目減りが発生した原因が、「マクロ経済スライド」と呼ばれる仕組みです。
年金というのは、どこかに財源があって、初めて成立するものです。
現在、寿命が延び、そして、現役世代の数に比べて高齢者の方、数が多くなってくると、今まで通りの計画で払っていたのでは、年金財政がもたないということで、政府は8年前に、こういった人口や寿命の要因にあわせて、年金支給額を動かすよ、という法案を通していたんです。
(Q: 8年前に始まって、なぜ今回?)
これまでは、賃金上昇分から一部、その賃金上昇分を我慢してもらって、マクロスライドをやろうとしていたんですが、そもそもこの賃金、物価の上昇というのがなかったので、これがない以上、マクロスライドも使えないだろうと。
1つは、経済の状態に考慮したわけですし、比較的、政権基盤の弱い政権が続きましたので、十分な年金に対する調整ができなかったということなんですね。
実際に、4月からどれぐらい目減りしたかというモデルケースを見てみる。
会社員の夫と専業主婦という年金受給者のケースでは、マクロ経済スライドを実施しなかった場合と比べると、年金は、月2,000円ほど目減りしたという結果になる。
マクロ経済スライドが続いていくと、将来受け取ることができる年金は、いくらになるのか。
厚生労働省が試算した表では、例えば現在65歳だと、月におよそ22万円支給。
そして、現在40歳が、25年後、受給の時に月もらえるのが、およそ24万円。
現在40歳の方が、およそ2万円ほど多くもらえるということになる。
ただ、その間、物価・賃金が上昇しているという中での試算になる。
(Q: 平均月収が11万円も25年間で上がっているのに、2.1万円しか年金が上がっていない。このギャップを、埋められるのか? どんどん苦しくなってくるということ?)
A:そうですね。
ただし、これ、給与並みに年金の方も上げ続けるとすると、若者の人数が減っていますから、若者が支払う保険料、掛金ですね、これをどんどん上げていかなければいけない。
年金は、ある意味でいいますと、長生き保険なんです。
長生きした人が、ある程度、生活を支えるためにもらえる保険。
保険ということは、本来、損をする人と得をする人というのが、半々ぐらいになっていないと、計算が合わないんですが、現在、日本ですと、大体73歳まで生きられると、年金の元が取れてしまうという状態。
(Q:平均寿命考えると、男女共に80歳を超えている。今後どうしていけばいい?)
A:やはり、この負担配分のバランス、これまでは、どうしても高齢者への支給を下げないために、どんどん若者の負担を増やしていくという方法をとっていたんですけれども、これ、限界があります。
ですから、ある程度の給付抑制、それと、ある程度の経済成長による給与の上昇、払う余裕を作っていく。
こういった負担配分のバランスというのを取っていかないと、なかなか年金は立ち行かないんじゃないかなと思いますね。